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長野日報新聞「土曜コラム」に掲載中のコラムです。ぜひお読み下さい。
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5 万一時のキャッシュフロー表
宝くじ当選者は破産する
大きな宝くじに当たった人は5年以内に破産するといわれています。これまで手にしたことのない大金が舞い込んでくるので、仕事を辞めて派手な生活を送り始めるのでしょう。苦労せずに入ってきたお金に使途など考えられていませんので、ついつい派手な生活を送り浪費してしまいます。
そして、一旦身に付いた浪費癖はそう簡単には止められません。当選金が次第に少なくなってくると、借金をしてでも再度宝くじの大当たりを夢見て投資を繰り返すことでしょう。
理屈で考えれば仕事もせずに、遊んでばかりいたらどれだけ大金があってもやがてなくなることは誰にでも分かることです。でも人は一度身に付いた甘い習慣は永遠に続くと錯覚してしまうものです。そして困ったらまた奇跡が起きて、なんとかなると考えてしまうのでしょう。
万一の出来事は突然やってくる
宝くじは買わないから、買ったとしてもきっと当たらないから、そんな心配は無用だと思われるでしょうか。
偶然は突然やってきます。これまで平穏無事な生活が続いていたとすると、このような生活が来年、再来年、ずっと続くものと信じてしまう。
しかし、事故はいつ、どんな形やってくるか分かりません。不幸にも交通事故で亡くなることもあります。普段の忙しさにかまけて久しぶりに行った人間ドックで病気が見つかることもあります。見つかったときには手の施しようのない状態になっていたということもあります。
闘病生活は先が見えない故に毎日が不安でいっぱいです。なんとか以前の健康で普通の生活に戻れるよう努力しても報われない場合があります。どうして我が家だけにこんな不幸が訪れるのかと恨めしく思われます。
このように予想し得ない出来事は突然やってきて、これまでの生活を一変させてしまうのです。亡くなった方の思いを直接確認することは出来ませんが、おそらく自分がいなくなっても残された家族がいつまでも仲良く暮らして欲しいと願っていることでしょう。突然やってくる万一の出来事はいつか我が家にもやってくると考えれば今から準備することも出来ますし、心構えも変わってきます。
万一時のライフイベント
万一時とは家庭においていろんな出来事が一大事として考えられますが、ここでは世帯主が亡くなった場合を想定します。世帯主が亡くなると、これまで元気で歳を取っていくことを前提に考えていたライフイベントは大きく変わるでしょう。配偶者の就労形態も変わるでしょうし、住宅・養育計画を変更せざるを得ないかもしれません。世帯主が亡くなったことが子供の成長に影響を与えるかもしれませんが、万一の際の家計がどのようになるか考えておきましょう。
収入金額の算出
万一時のキャッシュフロー表では、世帯主が亡くなった後の収入を捉えます。まず公的保障としてサラリーマンや公務員の方であれば、遺族厚生年金があります。年収が500万円くらいであれば、年間50万円ほどが遺族に支払われます。現状では遺族に一生涯支払われますが、平成19 年4 月から子供のいない30歳未満の遺族配偶者には5年間と期間が限定されます。
次に子供のいる遺族には遺族基礎年金があります。平成18年度価格では792,100円であり、第2子までは子供一人につき227,900 円が加算され、第3 子以降は子供一人につき75,900 円が加算されます。この遺族基礎年金は子供が18歳になるまでは支給されますが、18歳を過ぎるとなくなります。
サラリーマン等であれば、遺族基礎年金に遺族厚生年金が上乗せされ支給されますが、自営業者であれば遺族基礎年金のみになります。また、サラリーマン等であれば、中高齢寡婦加算(平成18 年度価格594,200 円)が遺族基礎年金終了後、遺族配偶者が65歳になるまで支給されます。他にも遺族配偶者の年齢によって加算されるものがあります。もし、仕事中に亡くなれば、労災保険から遺族給付があります。このように加入している公的保障によって支給額は異なりますが、遺族にとっては大きな支えとなります。
会社等に勤務されている方であれば、会社からの死亡退職金があります。会社ごと退職金制度が異なりますが、就業規則、退職金規程等に記載されています。他に会社では従業員に保険を掛けている場合や、互助会から見舞金が支給される場合があります。自営業者の方は公的保障も限られ、企業保障もありませんので、サラリーマン等に比べ自助努力がより必要になってきます。
次に考えられる収入は、配偶者の勤労収入になります。世帯主が亡くなりましたので、これまでのパート勤務を正社員に切り替えられるかといえば、家庭ごと異なります。子供が小さければ仕事に就くことが出来ないかもしれません。何とか仕事に就いたとしても、世帯主ほどの収入を得るのは困難かもしれません。
その他の収入源としては、所有している資産を売却して収入を得ることが考えられます。また、65 歳になれば配偶者自身の老齢年金が支給されます。
支出金額の算出
支出金額の算出に当たり、最初に日常生活費がどのくらいになるか考えます。世帯主の亡くなった後のことですから、実際になってみないと分からない。その時はそれなりに何とかやるしかない。そんなことを考えるのは縁起が悪いので、考えたくもないと思われるかもしれませんが、万一のことが発生してからでは取り得る選択肢に限りがあります。
一般的に現状の生活費を100とすれば、子供が就職するまでの生活費は70とし、子供が就職後の生活費を60 とします。ここでいう現状の生活費とは平時のキャッシュフローで使用した生活費と同じ値を用います。
次に考えることは、住宅費用になります。すでに住宅を取得して現在住宅ローンを返済している場合、団体信用生命保険に加入していれば、その後のローン返済はなくなります。賃貸住宅に住んでいて引き続き住むのであれば、毎月の家賃が発生します。他に将来の住宅修繕費用、固定資産税、都市計画税などが住宅関連費用としてあげられます。
子供に対する養育計画としては、教育機関ごとの授業料、施設費、入学金、習い事、塾費用等があります。父親の死によって子供の養育計画が変化することは時々耳にしますが、シミュレーションを行なう上では計画通りに進めましょう。子供の進路は親が一方的に決めることが出来ませんが、経済的な支援としてどのくらい準備をすればよいか把握することは大切です。
長野県で生活するには自動車は必需品です。世帯主の自動車は無くなりますので、買換え、車検、燃料代、保険料等はその分少なくなります。その他に支出するお金としては、旅行、高額な買い物、複数年に1 度発生する支出、住宅ローンを除いたローン、家族イベント等があります。平時のキャッシュフローを作成し、万一の事態が発生したら何が変わるかをチェックしながら支出項目を検討します。
年毎に収入金額、支出金額が分かれば、単年度の収支が計算できます(単年度収支=収入合計-支出合計)。ここで加入している生命保険、勤務先からの死亡退職金等を加算、葬儀・臨時費用を減算します。これにより各年の貯蓄残高が把握できますが、さらに貯蓄残高に運用利回りを掛けます。現在銀行普通預金に預けておけば、ほとんど増えることはありませんが、ある程度のリスクをとって運用すれば、利回りはよくなる場合があります。どのように分散しリスクをとりながら、投資していくかはポートフォリオ作成の話になりますので、機会を改めてお話します。
得られた貯蓄残高が黒字であれば万一の出来事があったとしても遺族は安心して暮らすことが出来るということです。ここで時々見受けられるのが、万一の出来事があったほうが残された家族の資産が増えるということがあります。これは現状の保険金額が多すぎるかもしれません。
パニックがマイナスの連鎖の引き金
一方貯蓄残高が赤字であれば収入を増やす、支出を減らす、貯蓄を増やす、将来の計画を変更する、保険金額を増やす等の検討が必要になります。万が一の出来事の発生確率は低くほとんど発生しないかもしれません。ですから万が一と言われるのでしょう。しかし、発生確率はゼロではありませんので、一応想定しておかなければなりません。一旦不測の事態が発生しますと、それによって新たな事態を引き起こします。マイナスの連鎖は事
態をますます悪化させてしまうのです。たとえば仕事の帰り道に疲れを癒すためにちょっとだけと酒を飲んで車を運転し、検問にあったとします。最近では飲酒運転が犯罪扱いされていますから、怖くなりその場から逃げようと暴走すれば新たな事故を引き起こしかねません。そして人身事故に繋がれば、免許を失い、職を失い、信用を失い、家族を失い、自らの人生そのものを失いかねません。
一旦発生した事故による損失をなるべく最小限に食い止める必要があります。そのためには縁起が悪いことでも、都合が悪いことでも想定し、マイナスの連鎖を発生させないような対処が求められます。パニックにならないようにする心構えと早期に立ち直り自立するための資金が必要になるのです。特に資金準備には時間がかかりますので、計画的に進めなければなりません。
長野日報土曜コラム平成18年9月24日掲載
有限会社テヅカプラニング 手塚英雄
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