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長野日報新聞「土曜コラム」に掲載中のコラムです。ぜひお読み下さい。

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110 幸せの勘所

幸せとお金に相関はない

 

現状の生活にあなたは十分満足しているだろうか。もう少しお金があったらもっと満足できる生活が送れ、さらに幸せになれると思うだろうか。

年収と幸福感を調査した結果を見ると、年収 200 万円未満では「あまり幸せとはいえない」17.2%「非常に幸せ」22.2%であり、年収 900 万円以上では「あまり幸せとはいえない」5.3%「非常に幸せ」42.9%であった。

 

年収が増えるに伴い「あまり幸せとはいえない」値は下がり、「非常に幸せ」の値は上昇するが、年収が4 倍以上になったからといって幸福感は 4 倍以上になるわけではない。

このような研究データは他にいくつもあり、年収が 750 万円くらいまでは正の相関が見られるが、それ以上は年収が増えても幸福感はさほど上昇しないといわれている。

 

この研究からもうひとつ注目する点は、年収 200 万円未満でも「非常に幸せ」を感じている人が 22.2%いるところである。5 人に 1 人以上の人が非常に幸せと言っていることである。

お金がたくさんあればより多くの財やサービスを取得することができるが、取得することができたとしても幸福感はさほど変わらない。

 

宝くじが実際に当たったとしても瞬間的には幸福感は上昇するが、しばらくすると元通りになってしまう。

さらに親の遺産をめぐる争いでは失うものが大きく得られるものは何かを改めて考えてしまう。

 

文化の違い

 

「幸せ」といっても人により感じ方は異なるだろう。幸せを直接測定する方法はないので、研究も自己申告や唾液の成分、顔の表情、脳内の活性化部分などから間接的に測定している。

また幸せを生活の満足度、人生の達成度、快感の多さ、QOL などをまとめて捉えている。幸せを哲学的、宗教的に捉えるとややこしい方向に進んでしまうので、学者の科学的分析に基づく。

 

映画といえば娯楽の中心にあり、作られた国の文化を反映している。ハリウッド映画を見た人は多いと思われるが、派手な映像と先の展開が読めないストーリーに引き寄せられる。

米国でヒットすれば欧州でも日本でもヒットする傾向がある。これは映画に対する関心のポイントが世界中共通していることかもしれない。時には観ていてその派手さに疲れてしまい、観終えて空しさが残るときがある。

 

しかし、邦画は比較的ゆったりと心象風景を描く作品が多い。メリハリがなくつまらないと思う人もいるだろうが、涙を誘うシーンではついもらい泣きしてしまう。

幸せを感じる部分が米国と日本では異なるところがあると思われる。米国では肯定的感情を持つことが理想的な人生と捉えている。そしてその頻度が多ければ多いほど人生の満足度は高い。

 

肯定的な感情に「誇り」があり、出生に関わらず能力と実力があれば誰でも成功することができる。自分が特別の存在と思えるところに幸せを感じ、それは無限大に広げることができると考えている。移民国家であるため個人主義が尊重され、独立的自己観が備わってきたのだろう。

一方日本の場合、悪いことを不幸とばかり捉えたりしない。悪いことがあれば乗り越えた先には、今以上の幸せがあり、良い事と悪いことは誰にも平等に訪れると思われている。

 

日本における理想的な人生に自分ひとりの成功と誇らしく思うことは少ない。たまたま賞を取れたのは自分の力だけではなく多くの人の支援や協力によるものと感謝する姿が多く見られる。

日本では儒教の精神が受け継がれ、他人へ思いやり、父母や年長者へ仕え、伝統的文化的儀礼に明るく、伝統の儀礼に従った生活を送ることを理想の人生と捉えているところがある。

 

周囲の人と多くの面で似た嗜好を持ち、上手くやっていけることから自分の存在感を認め、そこに幸福観を見出している。

島国で単一民族が長い歴史の下に築いた年功という秩序により良くも悪くも協調性が重視され、一人目立とうとすれば出る釘は打たれ、個性が発揮しづらくなる。文化の違いは幸福観の違いにも表れる。

 

幸せの勘所

 

文化の違いで多少幸福観は異なる点があっても、人が幸せを感ずる部分の多くは共通している。また人が生きる目的をお金のためではなく幸せのためであるなら、幸せの勘所を意識して育めば直接幸福感が得られるのではないだろうか。心理学者の研究を参考に幸せの勘所を拾い集めた。

 

まず性格においてポジティブとネガティブに分けるとポジティブな人のほうが幸福感を得やすく、生活の満足度が高い。これはポジティブな人は人生の肯定的な出来事に反応しやすいため幸せを感じやすい。

物事を知覚的に受け止める際はポジティブな人は大きな枠組みを捕らえ、ネガティブな人は細部の形状にこだわる傾向がある。幸せに生きるためには楽天的で大雑把くらいがよい。

 

友人関係においては、「使える」「楽しい」「尊敬できる」と 3 種類に分けられる。互いの人格を理解したうえで長く付き合える「尊敬できる」友人が最も望ましい。「使える」友人は自分のニーズが無くなれば付き合いもなくなり、「楽しい」友人は年をとるにつれ楽しみが変化するので長続きしないといわれている。

自分が一方的に尊敬していても相手もそれなりに尊敬してくれるようになるには、相当の努力をしなければならないので、少々大変であるかもしれない。

 

仕事や生活においても葛藤は幸福感にマイナスに働く。そのため目標設定は一貫していなければならないといわれる。これは米国で特に意識されていることだが、一貫性は自己概念の中核である。場当たり的な言動は嫌われ、例えば選挙の際一貫性が支持する上で大きなポイントに上げられる。日本では柔軟性と受け止められさほど厳しい目は向けられない。

 

最近買い物でネットを利用する人も多いだろう。ネットでは対象物を簡単に比較することができる。そして最も安い店舗を探して購入を決断する。

この比較する習慣は買い物だけでなく自分と他人を比較しがちである。常に最大の効果を追求する習慣は現実が異なった場合に落胆の度合いが大きい。落胆は大きければ大きいほど不幸せを感じることになる。

 

親や上司からの期待が大きく、それに応えようとすればするほど、現状に満足できず幸福感を得る事は難しくなる。適当でオーケーの方が幸せでいられるので、過度の比較は自分の劣る部分だけに目が行きがちなのでほどほどにしたほうが良いだろう。

 

相手の褒め言葉で幸せになり、責める言葉では不幸せになる。責める言葉は褒める言葉の 3 倍ほどの威力があるので、責めると同時に 3 倍の褒め言葉を使わないとバランスが取れない。相手の細かいところに目が行くから責めたくなるので、良い所だけ見て悪いところには気付かないほうが互いの幸せのためである。

 

幸せの効用

 

お金と幸せに相関はないが、幸せな人はお金を稼いでいるデータはある。性格が明るければ多少成績が劣っていても企業では採用されるだろう。対人関係が良好であれば結果として人を惹きつけお金も引き寄せることになるだろう。

幸福感を高める要因のひとつに結婚があるが、幸せな人のほうが結婚している割合は高く、離婚する割合は低い。人生に満足している人であれば、結婚相手としてもパートナーとしても不満ばかり言う人より好まれるに違いない。

 

幸せな人は健康で長生きである。同じウイルスに感染したにもかかわらず、幸せな人のほうが症状は軽かった。また若い頃にポジティブな言葉を多用した人のほうが寿命は長いというデータがある。病は気からという言葉は幸福感にも共通するようだ。

お金の力は無限大でお金があれば何でも出来ると考えられているが、人が人生で求めているのは幸せであり、お金が少なくても十分幸せに暮らすことはできそうだ。「得」から「徳」の追求に切り替えたほうが幸せに暮らせそうだ。

 

長野日報土曜コラム 平成 27 年 10 月 24 日掲載

有限会社テヅカプラニング 手塚英雄

 

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