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長野日報新聞「土曜コラム」に掲載中のコラムです。ぜひお読み下さい。
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令和元年からのコラム
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90. 夫婦のコミュニケーション
92. もう一人の自分
93. ニ間続きの座敷
94. 子育ては今が大変
95. 霧に迷いし蛍かな
96. 旅は人生を豊かにする
97. 持家の選択
98. 自動車を手放すとき
99. 投資してますか?
100. お金と人を見つめ続けて
平成26年
91 地域のコミュニケーションは幸福度を高める
地元では外出の際は人目を気にする
新聞チラシにバーゲンセールが載っていれば気になって出かけることがあるだろう。バーゲン品を漁っているとつい周囲を見渡して知っている人がいない気になってしまう。買い物に限らずイベント等で人が多く集まる場所では辺りを見回してしまうことがある。
もし知っている人がいれば挨拶くらいしなければ失礼にあたるからだ。狭い地域に住んでいるとどこに行っても必ず知っている人のひとりや二人に会うものである。いつの間にか周囲を見渡す習慣が身についてしまう。
地元を離れ観光地で昼食にそば屋に入るとどこかで会ったような人が入ってきた。向こうもこちらに気づき見ているようだった。しかしどこの誰かがなかなか思い出せない。気にし始めると食事中も気になって落ち着かない。
食事を終え外へ出ると向こうも店から出てきたので、勇気を持って挨拶をしながら「どちら様でしたっけ」と尋ねてみた。すると時々訪れる金融機関の窓口にいた人であった。
わざわざ挨拶をするほどでもなかったが、先ほどまでのもやもやが消えすっきりした気分になった。
地方では常にこんな具合で誰か知っている人がいないか気にしながら行動しているので、おかしなことや間違ったことは出来ない。本人が気づかなくても誰かが見ていて、本人が知らないところで話題になっていることがある。
そして世間話の中には他人の素性や行動をネタにすることは良くある。初めて会う人からいきなりこちらの素性が語られるのは恐ろしいものである。地方では他人に干渉することが頻繁にある。
都会で知人に会うことはほとんどない
都会に行けば町で顔見知りに会うことはほとんどない。電車に乗っても隣の人が誰かなどと気にすることはほとんどない。だから他人に迷惑がかからなければ自分勝手な行動を取りがちになる。電車の中では化粧を直す女子高生をいかがなものかとつぶやく人もいるが、普段から周囲の目を気にしない生活に慣れてしまえば当然の行動かもしれない。
隣人に対する無関心は自分勝手な行動をとり、周囲を気にすることがなくなるので、面倒くさいことがない。どんな格好をしていようと迷惑さえかけなければ良いのである。
一方どんなにたくさんの人がいても誰も自分に感心を持ってくれないので、寂しさを感じることがある。
こんなにもたくさんの人がいるのに自分の存在を無視しているように感じれば、寂しさはいっそう深まる。
他人の助けを必要としない状態ならば気にすることはないが、自分が弱っていたり、落ち込んでいる時は誰かの助けを求めたい。
人は他人を通して自分を見ている。体調が良いのか悪いのか、明るいのか暗いのか、本人だけでは分からない。本来元気な人でも 3 人の人から「今日具合が悪いの?」と聞かれれば、具合が悪いと信じてしまう。
また仲間に対してもっとも卑劣な行為は「無視」である。この行為は人が自分の存在を否定されたと感じるからである。
こんなとき人によっては自虐的行動をとったり、暴走して他人を傷つけたりするかもしれない。暴走事故を起こして他人を傷つけた容疑者は「誰でも良かった」という。誰かに関心を持たれているという感覚があれば事故は起きなかったかもしれない。
豪雪地域は幸福度が高い
今年みたいに大雪が降れば内陸部は陸の孤島となり、生活物資が届かず日常生活に及ぼす影響は大きい。それだけでなく除雪作業は若い人でも重労働であるので、高齢者にとっては最も大変な作業である。さらに落雪による身の危険も感じられる。
それなのに都道府県別に行われた幸福度調査では北陸 3 県が上位を独占している。こんな厳しい環境で生活する人々の幸福度が何故高いのだろうか。もっと安全で過ごしやすい地域は数多い。住めば都という理由であるならば日本全国どこでも同様であるはずだ。
おそらく幸福度を高めている理由のひとつには地域のコミュニケーションが関係していると思われる。豪雪という自然に対して人は無条件に受け入れるしかない。生活するためには除雪が必要になり、その作業を行政任せにすることは出来ない。
よって地域の住民が力を合わせて除雪作業を行うことになる。隣近所で生活道路の除雪を行なえば、我が家だけ協力しない訳にはいかない。一緒に除雪作業を始めれば、「今年もまた降りましたね」「頑張って早く終わらせましょう」など、普段会話をしたことのない人とも自然と会話する。
同じ目的を持っている者同士なので、自然と一体感が生まれる。助け合わなければ生活ができなくなる。
そして住民同士に一体感が芽生えれば、他人に対する気配りもなされる。高齢者しかいない住宅の回りも一緒になって除雪作業を行なう。互いに助け合って生活しなければならない環境が、そこに住む人々の結びつきを固くして幸福度を高めているのだろう。
都会における隣人への気配り
地方の住宅は道を歩いていても家の中をうかがい知ることは出来る。場合によっては庭先から入り縁側で世間話をすることがある。
一方都会の場合は集合住宅であれば、必ず玄関ドアを通じて会うしかない。また戸建ての住宅では塀が高く中をうかがい知ることはほとんど出来ないので、挨拶をすることもない。用もないのに気軽に立ち寄ることは不可能に近い。防犯という観点が重視され、他人とのコミュニケーションは疎かにされてきた。
現在全国の高齢化率は20%台の後半の都道府県が多く、中には30%を越えている県も存在する。地方ほどではないにしても都会においても高齢化率は高まっている。
また高齢者が一人で暮らすことも増えている。そのため誰にも看取られずに亡くなっていく「孤独死」が社会問題となっている。
孤独死対策として民生委員が地域の見守り役として既にあるが、人数が少ないことから自治会や民間業者を含め見守り活動が行われるようになってきた。ガス・水道点検、新聞・牛乳配達、金融機関等が見守り活動に協力を始めた。
これまで他人との関わりが希薄であるのが都会生活の特徴であったが、高齢者を対象に行政や関係者が住民とのつながりを深めようとしている。
現代社会では便利になりひとりで生活することは出来るが、他人とコミュニケーションを取らなければ自分の存在を確認することが出来ない。ひとりで生活する際の孤独や寂しさからの恐怖は人間の本能によるものだろう。人間も他の動物と同様に群れで生きるよう記憶の中に仕組まれている。
若者に限らずソーシャルネットワークを通じて他人とのつながりに夢中になるのは、群れの一員として生きたい本能の現われだろう。Iターンで田舎暮らしを楽しんでいる人は、地域の住民とコミュニケーションを上手に取り、地域の一員となった人である。
長野日報土曜コラム 平成 26 年 3 月 22 日掲載
有限会社テヅカプラニング 手塚英雄
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