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54 死んだ後にやること

後をよろしく

 

独居老人の孤独死がニュースで伝えられると、可哀想に独りで淋しくなかったか、誰にも助けを求められずに苦しかっただろうと受け止められる。地域の友人や家族とも関わりがなく、無縁社会で生活してきた結果の現れだろうか。現在社会とつながりがなく死んでいく無縁死が年間3 万2 千件あるといわれる。

 

無縁死の原因や予防策に意識が向いてしまうが、独りで亡くなった後はどうなるのだろうか。遺体は行政によって火葬され骨になる。住んでいた部屋の家財は親族に連絡が取れれば、親族によって処分されるだろう。遺品整理業者が片付ければ産業廃棄物になる。

 

物は廃棄することが出来るが、預貯金や建物、土地はそうはいかない。誰かが勝手に引き出したり、売却したり、名義変更したりすることは出来ない。法律で定められた者しか手を付けることは出来ない。

 

若いうちから独身を貫き、おひとりさま老後と決め込んだ人は、なるべく他人の世話にならぬよう周到に準備をする。身の回りのものを整理したり、遺言を書いてどんなに準備しても、あの世に行ってしまえば口も手も出せない。この世にいる誰かに後をよろしくと頼むしかない。

 

相続後速やかに行なう手続き

 

親や配偶者が亡くなると、残された家族には葬儀・法要など儀式以外にお金に関わる煩雑な手続きに直面する。煩わしい手続きならば一気に片付けたいところだが、速やかに行なうものと多少時間をかけてもじっくり取り組むものがある。

 

まず速やかに行なう手続きとして遺族年金の請求があげられる。遺族年金には遺族基礎年金と遺族厚生年金がある。遺族基礎年金は受給要件として18 歳未満の子もしくは子のある妻となっているので、年金生活をしている高齢者の場合該当するケースはほとんどないと思われる。

 

サラリーマン経験のある人であれば厚生年金を受給している。このような人が亡くなれば、遺族厚生年金が請求できる。受給額は老齢厚生年金の3/4程度であるが、配偶者にとっては大切な生活費である。

 

請求するには死亡診断書、年金請求書、相続人の戸籍謄本、住民票、年金手帳等を揃えて近くの年金事務所、年金相談センターで申請手続きを行なう。給付を受けるまでに3,4 ヶ月かかるといわれるので、早めの手続きをしたほうが良い。

 

続いて加入している健康保険もしくは国民健康保険から5 万円程度の埋葬料が受給できる。受給には死亡診断書、請求書、被保険者証等を揃えて市町村、協会けんぽ等で申請手続きを行なう。

 

続いて受給するだけではなく、支払わなければならないものがある。亡くなった人がその年に得た所得の精算である。準確定申告といって死亡後4 ヶ月以内に所得税の確定申告を行なう。高齢者であれば所得は老齢年金が主なものになるが、死亡前に入院等があり多額の医療費があれば医療費控除が受けられ、場合によっては税金の還付があるかもしれない。

 

他には保険に加入していれば死亡保険金の請求がある。加入している保険会社に保険金請求書、死亡診断書、ケースに応じて受取人の印鑑証明、被保険者の死亡記載のされた住民票等を添えて請求する。死亡原因が自動車事故であれば自動車保険、傷害保険等も請求対象になる。

 

死亡した人が被保険者ではなく契約者や受取人になっていれば、保険会社に連絡して変更手続きをしておく必要がある。また、電気、水道、ガス等公共料金の名義変更も必要になる。

 

遺産分割が前提の手続き

 

誰が何をどのくらい相続するかを決めるのが遺産分割である。死亡した人が遺言で意思表示することが出来るが、遺言がなければ相続人の間で協議をして決める。協議で決まらない場合は家庭裁判所により分割することになる。

誰が何をどのくらい相続するか決まれば、後の紛争予防も含め遺産分割協議書を作成し、相続人全員で署名捺印をする。被相続人の財産は遺産分割協議書に基づいて相続人に名義変更がされる。

 

銀行預金口座は被相続人が亡くなったところから相続人共有の財産になり、銀行では凍結する。そこで特定の相続人の財産にするために名義変更が行なわれる。

 

名義変更を行なうには、銀行に名義変更書、口座の預金通帳と届出印、遺産分割協議書、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、印鑑証明などを揃えて手続きを行なう。

 

葬儀等にかかるお金は保険金では間に合わないので、香典を合わせても事前に準備しておくか、相続人が立て替えることになる。

 

続いて上場株式の名義変更は取引している証券会社の取引口座の変更が必要になり、その後株式の名義変更が行なわれる。証券会社に株式名義書換請求書、遺産分割協議書、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人の戸籍謄本、相続人全員の住民票、印鑑証明などを揃えて手続き申請を行なう。

 

続いて不動産の所有権移転登記の申請はその不動産を管轄する法務局で手続きを行なう。この手続きは専門的になるので、司法書士に依頼することが多い。

 

用意するものとして、所有権移転登記申請書、固定資産評価証明書、遺産分割協議書、被相続人出生から死亡までの戸籍謄本、被相続人の住民票除票、相続人全員の戸籍謄本、相続人全員の住民票、相続人全員の印鑑証明書などを揃える。

 

こうしてみると、共通する書類が数多くあることが分かる。手続きの際にはそれぞれ書類を提出することになるので、何部必要になるか整理した上でまとめて請求するのがよい。ところで資産運用の基本は分散投資である。そのためいくつかの金融機関に口座を設けていれば、その都度変更手続きが必要となる。書類の準備と手続きに手間がかかるので、生前に整理しておくと後を頼まれた者の負担が減少する。

 

不動産の所有権移転登記の申請は司法書士への報酬や登録免許税などお金がかかることもあり、変更しないでいる場合がある。そうすると被相続人の親の名義になったままである。すでに相続人は孫の代に移っていると、相続人は多数になり変更手続きは更に煩雑になる。

 

相続税の申告は被相続人が死亡後10 ヶ月以内に行なう。被相続人が保有していた資産が基礎控除額を超えた場合に申告、納税が必要になる。現在では相続人が配偶者と子供2 人では基礎控除額は8,000 万円である。相続税を支払う家庭は全体の5%程度といわれているが、超えるのか超えないのか資産を評価してみないと分からない。

 

偲ばれつつ消えてゆく

 

故人が生前契約していたものがあれば、死と共に相続人等に名義変更され、各種手続きが発生する。独りで生きてきて、誰の世話にもならずに死んでいくとしたら、不動産は持たず、賃貸の老人施設に入居し、支払いは全て現金で済ませれば、かかる手間は少なくなる。

 

しかし、現在支給される年金は口座振込であり、身近に現金を置いておくのは誠に無用心であるので、銀行口座を持たないのは実質不可能である。

 

産まれてくるときも死んでいくときも誰かの援助を必要とする。誰の世話にもならず独りで死んでいくことが出来ないなんて考えても仕方がない。その時は誰かが何とかしてくれると気楽に考えたほうが良いのだろう。後の手続きは誰かに任せ、残った遺品を片付けてもらいながら偲ばれつつ消えていくのはどうだろうか。

 

長野日報土曜コラム平成23年2月26日掲載

有限会社テヅカプラニング 手塚英雄

 

 

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