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長野日報新聞「土曜コラム」に掲載中のコラムです。ぜひお読み下さい。
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令和元年からのコラム
平成31年
53. 遺品整理
54. 死んだ後にやること
55. 地震リスクマネジメント
56. お墓
57. ラストメッセージ
58. 献体・臓器提供
59. 介護に備える
60. 葬儀業者
61. 結婚活動
62. 結婚しようよ
63. 結婚する前に
64. 夫婦の財布
平成23年
58 献体・臓器提供
献体
俳優の細川俊之さんが2011年1月12日に自宅で倒れ意識不明状態になり、1月14日に都内病院で亡くなったというニュースが流れた。その際通夜・葬儀等は行なわれず、遺体は大学病院に献体されると報道された。
献体について財団法人日本篤志献体協会によると、献体とは医学・歯学の大学における解剖学の教育・研究に役立たせるため、自分の遺体を無条件・無報酬で提供することをいう。
献体された遺体は医学・歯学の学生が半年ほどかけてくまなく解剖する。医師が人体の構造を知るためには必要な実習であり、医師になってからの医療ミス防止に役立っている。話題になった「人体の不思議展」で展示されている臓器は献体によって提供されたものである。
2~4人程度で一人の遺体を解剖するので、年間3000 を超える遺体が必要とされている。昭和30年代は大学で行なわれる解剖学実習に必要な献体数は少なかったが、献体運動のおかげで現在献体登録者は20万人を超えている。
献体登録者が増加している理由は自分の遺体で社会貢献したい、医師のスキルアップに役立ちたいという人の増加とともに他の理由もあるらしい。
献体された遺体は切り刻まれ実習が終わると、大学で火葬され合同葬が行なわれる。その後遺骨は親族に返されるが、引き取り手のない遺骨は納骨堂に保管される。身寄りがなくお金がない人が献体を利用して葬儀・供養をしてもらっていることになる。無縁社会の下親戚に迷惑をかけたくないという思いと、死んで社会貢献をしたいという思いを兼ね備えた結果である。
献体登録は献体の会や大学に申し込む。献体登録しても実行されるには肉親者の同意が必要である。
遺族の中に一人でも反対者がいれば献体は行われない。献体を望むならば登録とともに本人の意思を生前に肉親者に伝え、納得してもらうことが大切になる。
臓器提供
臓器提供は、脳死後あるいは心臓が停止した死後に行なわれる。2010 年7月に改正臓器移植法が施行され、生前に書面で臓器を提供する意思を表示しているか、本人の意思が不明でも家族の承諾があれば臓器提供が出来るようになった。これにより、15歳未満の人からの臓器提供が可能になった。
臓器移植とは、重い病気や事故などにより臓器の機能が低下し、移植でしか治療できない方と死後に臓器を提供してもいい方を結ぶ医療である。
脳死で提供できる臓器として定められているのは、心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球(角膜)である。また、心停止後に提供できるのは腎臓、膵臓、眼球(角膜)となっている。
臓器の摘出にかかる時間は3~5時間程度であるが、移植するまでの各臓器の有効時間は限られている。心臓4時間、肺8時間、肝臓12時間、膵臓その他は24時間以内となっている。またどんな人の臓器でも良いわけではなく、ガンや全身性の感染症で亡くなった場合は臓器提供が出来ない場合がある。提供される方の年齢基準は概ね70歳以下が望ましく、心臓は50歳以下が望ましいとされている。
現在日本で臓器提供を待っている人はおよそ12,000人であるが、移植を受けられる人は年間300人程度である。臓器の場合組織の適合が求められるので、献体のように誰でも良いわけではない。
かつては臓器移植というと海外で手術を行なうため多額の費用がかかると話題になったが、日本で行なわれる移植には健康保険が適用される場合がほとんどなので費用負担は少なくなっている。
献体の場合は解剖実習に使われるので遺骨が遺族の元に戻るには2~3年かかるが、臓器提供の場合は対象臓器を取り出せば遺体を元通りに修復して遺族の元に返される。よって、通夜・葬儀も普通に行なうことができる。
臓器提供の意思表示の方法には、インターネットによる意思登録、意思表示カードへの記入のほかに健康保険証の裏面に意思表示を記入することが出来る。提供する臓器にチェックすることで意思表示したことになる。
社会貢献
献体は医科・歯科学生の医療スキル向上のため大きな役割を果たすことになる。また臓器提供は生きることを希望している人の命を救うことに役立っている。
移植によって生き続けている方の手記を読むと、感謝と喜びに溢れている。生きていることの素晴しさを言葉に表しきれないほど語りかけている。これは普通に生きている人にとって命の大切さや新たな気付きを与えている。
人間は骨と肉の塊なので、死ねばやがて腐り朽ち果てていく。自分がこの世に生きた証を残し、社会に恩返しをする気持ちがあれば、献体も臓器提供も自然な行為であり、素晴しいと賞賛される行為だろう。
実際に献体された方には文部科学大臣から感謝状が贈呈される。
遺族の想い
一方遺族の想いは複雑かもしれない。遺体は長いことホルマリンに浸けられ保存される。解剖学実習は秋に行なわれることが多いが、腕にしても皮膚が剥がされ、筋肉、血管、神経等が切り離されていくことになる。骨はのこぎりで切断され、内臓が取り出される。
同様の行為が頭部から身体全部に渡って行われる。想像しただけでも気分が悪くなりそうである。実際学生たちは実習後しばらく食事が出来ないという。まして焼肉は当分の間口に出来ない状態になるらしい。
臓器提供は移植までの時間が限られているので、脳死と判定されたら移植コーディネーターが家族と面会し、十分な説明後理解が得られたら臓器が取り出され、患者の待っている病院に空輸される。
臓器移植は本来生きられなかった人が医療技術の進歩により生き続けられるようになった。患者と臓器提供者の肉親が会うことはないというが、臓器の一部が誰かの身体の中で生き続けていると思うと不思議な気分になる。
人の死を肉親者はすぐに受け入れられない。そのため遺体とともに24時間過ごし、通夜が行われる。
そして慌しくも葬儀・告別式、火葬が行なわれる中で亡くなったことを徐々に受け入れて心の整理を行なう。
献体では遺骨が手元に戻るまで1年以上かかるし、臓器移植が行なわれればどこかで故人の一部が生きていることになるので、親族の死の受け止め方は複雑かもしれない。ゆえに本人の意思と親族の全員の意思を持って献体・臓器提供が行なわれる。
人の死を受け入れられないということは、いつまでも悲しみと後悔に暮れ、新たな一歩が踏み出せないことになる。
エンディングノートに記載
エンディングノートには献体や臓器提供に関する記入欄が設けられているが、何気なくチェックすることは家族に大きな迷惑をかけることにもなる。それぞれの項目がどのような意味を持つのか、その後どのように進行するの
かをある程度理解しておいた方がよいだろう。
また自分の意思を家族に伝えるとともに、家族の理解を得ておかなければならない。伝えるべきメッセージが家族にとってどのように受け止められるか考慮してエンディングノートは作成されるのが良いだろう。決して独りよがりで作成することは慎まなければならない。
長野日報土曜コラム平成23年6月25日掲載
有限会社テヅカプラニング 手塚英雄
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