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56 お墓

お墓の値段

 

墓地に行けば大小様々、新旧様々な墓石が並んでいる。彼岸やお盆にはお墓がきれいに掃除され、供物や花が手向けられている。線香の香りが漂ってくれば、普段とは違った何か落ち着いた気分になる。

 

区画が整備されている墓地には境界石が置かれ、石で作られた団地のようでもある。このようなお墓にはいくらかかるのだろうか気になった。

 

まずお墓にかかるお金は墓石と墓地の費用に分けられる。墓石は国内産や国外産により異なり、一般的に国内産の墓石の方が高いといわれているが、大きさや石の種類によって大きく異なる。

 

和型の墓石は中央に石碑を配し、手前に花立、水鉢、香炉などがある。周りには塔婆立てや墓誌、拝石などがある。墓石には彫刻施行がされるので、それらを合わせると200 万円~400 万円くらいといわれている。高級な墓石になると1,000 万円を超えるものもある。

 

一方墓地には初期費用として永代使用料が発生する。墓地には所有権は認められず、墓地として永代使用する権利を購入する。地域や広さによるが100 万円くらいといわれている。さらに墓地の管理料として毎年1万円前後の費用がかかる。

 

これまで合計しただけでも初めに400 万円くらいがかかるだろう。墓石を新設すると僧侶によって開眼法要、入魂式、性根入れなどが行なわれる。セカンドハウスのようであり維持費を含めるとなんともお金がかかるものである。管理料負担やお墓の手入れは遺族が行なうことから、負債と捉えることもできる。

 

お墓の種類

 

多くの墓地で見かける墓石は和風墓が多く、黒御影石の石碑が積み重ねられている。石碑には代々家の墓と刻まれていることが多い。墓石の形態には決まりがないので、背の低い洋型の墓石もある。故人の趣味を反映したものや、ペットを形にした墓石もある。墓は石に限らない樹木葬や墓自体が存在しない海洋葬や散骨などもある。洋型の墓や趣味を反映したデザイン墓は家の墓というよりは、夫婦もしくは個人の墓の場合が多い。

 

墓地は公営墓地と寺院墓地に大きく分けられる。公営墓地は永代使用料、管理料が比較的安く、宗派を問わないことが多い。分譲数に限りがあるので抽選で取得するのが難しい。

 

寺院墓地は埋葬とセットで葬儀が行なわれ、檀家になることが前提となる。法要の都度寺院の僧侶による読経が行なわれ、寺院改修時には寄付が求められる。

 

お墓の取得や維持には相当の費用が発生するが、所有権が認められないので、固定資産税はない。

また、相続の際墓地や仏壇は非課税財産となるので、どんなに立派なものでも課税対象から外れる。

 

墓の多様化

 

代々家の墓があっても、入らない場合がある。死後の世界でも夫と一緒になるのを嫌う女性がいると聞く。また姑との確執から家の墓には入りたくない女性もいると聞く。

 

長男で跡継ぎであればすでに家の墓があるかもしれないが、次男や三男で家から出たものは新たな墓を設けることになる。

 

跡継ぎであっても実家のある地方を離れて暮らしている場合もある。両親が亡くなり墓参りや墓守が難しくなると墓の引越しも必要になる。住宅の引越しと異なり、墓には遺骨が存在する。遺骨を取り出し新しい墓に移せばよいというものではない。

 

遺骨の移動は新しい墓地で受け入れ証明書を発行してもらい、現在の墓地管理者に埋葬証明をしてもらう。現在の墓のある役所で改葬許可証を交付してもらい、移転先の墓地管理者に提出してから、遺骨の移動がはじめて可能になる。骨の移動には役所の許可が必要となる。

 

さらに今までの墓の墓石や付帯設備は移動するか処分して更地に戻して管理者に返還するのが原則である。

それでは遺骨は必ず墓地に埋葬しなければならないかといえばそうでもない。樹木葬は墓石の替わりに樹木を使用したことになるが、遺骨を骨壷に入れて自宅に置くことも出来る。遺骨を加工してプレートやペンダントにすることも出来る。

 

こうしておけばいつも身近で故人を偲ぶことができるが、子供がいたずらして破損する心配や兄弟から異議が出る心配もある。

 

葬式仏教

 

葬儀に僧侶を呼ばず戒名もないケースの割合を葬儀社に尋ねたら、1 割くらいと言っていた。残りの9 割の葬儀の際はすでに墓があり、寺院の檀家になっているという。葬儀や墓の形態がもっと多様化していると思っていただけに驚いた。

 

新聞のお悔やみ欄をみると現在亡くなる人の年齢はほとんどが80歳を超えている。なかには100 歳を超えている人もいて、70 歳代以前に亡くなると若くして亡くなったと感じられる。

 

地方で亡くなった方の年齢から察すれば、檀家に属して菩提寺が決まっているのもうなずけるが、葬儀やお墓、檀家付き合いの費用を考えるとこれからは更に多様化が広がると思われる。

 

檀家制度は江戸時代中期キリスト教が広まらないように、仏教の信徒であることを寺院から証明してもらう制度であった。一寺に一戸が帰属することが義務付けられ、各戸には仏壇が置かれ、法要の際には僧侶を招くようになり、僧侶により葬式を取り仕切るようになった。これが葬式仏教の始まりといわれている。

 

寺院では異教徒でないことを証明する代わりに寄付や布施を各戸に求めた。これに従わなければ身の証が立たなくなるので、一族共に差別を受けることになったといわれる。

 

葬儀社の担当者に何故僧侶による読経や戒名が必要なのかと尋ねたら、故人が成仏するために僧侶の読経による導きが必要であると応えてくれたが、いささか疑問が残るところでもある。

 

寺院が継続して存在するためには、故人の戒名料や檀家による布施や寄付がなければ経営が成り立たないところだろう。葬儀の際の戒名料、布施に続き、遺骨を寺院の墓地に埋葬して永代使用料や管理料、一周忌、三回忌、七回忌等に法要を繰り返して、発生する布施が寺院経営の基盤となる。

 

戒名とは本来仏教徒としての戒律を守ることを誓い、仏の弟子となった人に与えられる名前であった。

僧侶が葬式を取り仕切るようになり、死者をひとまず弟子にして葬式をやるために、弟子にするために出家させ死者に生前と異なる名前を与えたことが戒名のいわれである。

 

戒名は寺院に対して貢献の高いものには、それなりの名称が与えられる。現在は生前寺院と関係がなければ、多くの布施を払った男性には大居士、居士など、女性には清大姉、大姉などを用いた戒名が与えられる。文字数が多ければ多いほど料金は高くなり、高いものでは100 万円を超える場合もあるという。

 

料金の大きさが寺院に対する貢献度を表している。

 

供養はセルフケア

 

墓参りや自宅の仏壇に花や食べ物を供えることを供養という。供養は故人が浮かばれるために、祟りなどを起こさないようにするためといわれているが、亡くなった親や先祖が子孫に供養しないからといってそのようなことをするでしょうか。

 

遺骨が保管されいるお墓や位牌がある仏壇に手を合わせ向かい合うことで、家族を失った悲しみがよみがえってくる。大切な人を失った悲しみが大きいほど、自分が幸せだった証になる。悲しみが転じて幸福感がよみがえり、やがて感謝の気持ちに変わる。

 

お墓や仏壇に向かっても直接何も返ってこないが、自身の心のケアにつながり、自身を癒すことになるだろう。お墓や仏壇と向き合うことは自分自身と向き合うことのようだ。自身の心のケアには理屈ではなく自身がどのように感じるかが大切と思われる。

 

セルフケアのために故人と向き合うならば、お墓や仏壇でなくても良いと思えるが、習慣として必要とされているのだろう。

 

長野日報土曜コラム平成23年4月23日掲載

有限会社テヅカプラニング 手塚英雄

 

 

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