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55 地震リスクマネジメント

地震と保険

 

保険は事故や災害に対する経済的な損失を補填する役割を担っている。今回発生した東北地方を中心とした大地震では多くの被害が発生しているが、保険でどこまで補償されていくのだろうか。

 

地震による津波災害を補償する保険として地震保険がある。1995 年に発生した阪神大震災以降地震保険の加入率が高まったといわれているが、今回被害が大きかった地域を損害保険協会データで地震保険加入率をみると青森14.5%、岩手12.3%、宮城32.5%、福島14.1%、茨城18.7%の加入率である。

 

全国平均23.0%に比べ宮城県だけが平均を上回っている。全国的にみると人口が多い都道府県の方が高い加入率である。最高加入率は東京都30.0%、最低加入率は沖縄県9.5%である。

 

地震保険が補償の対象としているものは、住宅用の建物と家財である。言い換えれば、店舗や事務所、事業用の建物、設備、商品等は補償の対象にならない。海岸付近にあった市場や漁業施設などは住居ではないので地震保険には加入されていないことになる。営業損失なども保険では補償されない。

 

地震保険で補償される居住用建物、家財でも火災保険金額の50%を上限とし、さらに建物は5,000 万円、家財は1,000 万円の支払い限度が設定されている。建物が倒壊し流され全損になっても、建物の半分の保険金しか支払われないことになる。

 

火災保険は保険金額の設定が再調達価額で行なわれる。再調達価額はどんなに古い建物でも新たに再築する費用が保険金として支払われる。

 

一方、地震保険では保険金額の設定が時価で行われる。時価は建物や家財の現在価値であるので、古い建物、家財であれば支払われる保険金は少なくなる。

 

地震災害は広範囲に渡り損害額も計り知れないので、保険会社の支払い限度を超えてしまうので、一定の限度を設けている。さらに支払い総額が一定の限度を超えると国の資金が投入される制度になっている。

 

米国の地震保険では建物再調達価額限度まで保険金が支払われるという。国によって地震の発生頻度や予想損害額が異なり保険料も異なるだろうが、火災保険も地震保険も1 円から支払われて上限が決められている。

 

一般生活者からすれば100 万円は自己負担するけれど、支払い上限は再調達価額一杯に設定できれば、その後の生活再建がしやすい。損害保険が社会的役割を担うならば、現状の仕組みは中途半端なものと思われる。

 

 

他の損害保険

 

被災地の状況を映像でみる限り、被害を被ったのは建物や家財だけではない。数多くの自動車が流され、原形をとどめない状態であった。

 

自動車の車両の損害を補償する保険として車両保険があるが、地震や津波を原因とする場合、保険金の支払い対象外である。

 

また自動車が建物に衝突して建物が破損し、自動車にはねられ死傷すれば賠償責任保険が対象となる。これも地震が原因であれば、運転者に法律上の賠償責任が生じないことから保険金の支払い対象にならない。

 

被災者の中には多くのケガ人が含まれている。ケガは急激かつ偶然かつ外来からの作用によるものであるから傷害保険の支払い対象となる。

 

しかし、地震、津波を原因とする傷害事故は保険金の支払い対象になっていない。加えて放射能による被曝事故も傷害保険の対象外である。こうしてみると損害保険では地震保険を除いて支払われるものはほとんどないと思われる。

 

地震保険以外に支払いの対象となるのは生命保険である。亡くなった場合の死亡保険金と入院や手術を保障する医療保険などである。本当に困っているときの支えとなって欲しい保険も想定外の大災害には充てにならない。

 

地震リスクマネジメント

 

リスクとは将来発生する可能性のことをいい、リスクマネジメントは最小限の費用で最大限の効果をあげることを目的とする。この手法を地震災害にあてはめてみる。

 

まずリスクマネジメントのプロセスとして、リスクの確認、リスクの評価、リスク処理、結果の検討とフォローとなる。日常生活には多くのリスクが存在するが、地震リスクに限定する。

 

リスクの評価としては、発生頻度と損害額に分けられる。忘れた頃に訪れるといわれる地震であるが、今回の東北地方を中心とした大地震は1000年に1度といわれている。最近では2004 年新潟県中越地震、1995 年阪神大震災などがあった。

 

地震保険料は都道府県ごと異なり、料率の低い地域は地震リスクが低いといえ、北海道を除く日本海側地域と九州地方である。但し九州では普賢岳、新燃岳、桜島など火山活動が活発な地域があり、噴火災害も地震災害と同様に扱われる。

 

家庭からみる地震による損害額は、家が流され家族が亡くなり、仕事を失うという金額に換算することがことが出来ないほどの損害である。

 

続いてリスクの処理であるが、リスク・コントロールとリスク・ファイナンシングの2 つがある。リスク・コントロールは損失の防止や軽減を行なう。地震や津波に備えるには建物を堅固にする、防潮堤を築く、高台に住居を設けるなどが考えられるが、今回の地震、津波はそれらをはるかに超えていた。また個人でできることではほとんど防止に役立っていない。

 

軽減では地域を分散して建物を建てれば、全てが被害に遭わなくて済むが、個人の住居を分散することは考えられない。防止、軽減対策として効果がある選択はほとんどないと思われる。

 

リスク・ファイナンシングとは発生する損失の経済的対処法である。ひとつは移転といって経済的損失を代わりの誰かに賄ってもらう方法である。

 

要するに保険化することであるが、地震保険でも全額補償は出来ない状態である。他の損害保険では地震が原因の損害は補償対象に入っていない。生命保険では人の死傷に伴う保険金が支払われるが、地震、津波損害に対して保険化できるものは限定的である。

 

もうひとつの経済的対処法は保有である。損失を自らの貯蓄で賄うことである。事故により発生する損失はたいしたことはないので何もしないことである。地震、津波で全てが消失することを保有できる人はいない。

 

今回の地震、津波リスクに対してこれまで見てきたリスク・コントロールとリスク・ファイナンシングでは、ほとんど対応できない。このような場合発生し得るリスクを回避する方法が考えられる。地震や津波被害が及ばないもしくは地震がこれまで発生していない地域に引越しをすることである。

 

都道府県別に地震発生状況を見ると、比較的太平洋沿岸地域で地震が発生している。新潟県では中越地震が発生したが、日本海側地域では少ないと思われる。また内陸地域では沿岸地域に比べ津波リスクはなく、被害は局所に限定される。

 

仲間との絆

 

実際に発生した地震、津波の前に人が太刀打ちできるものはほとんどないと思われる。どんなに想定レベルを上げてもいつかは想定以上が発生する。

 

地震や津波による被害は家、思い出の品、家族、仕事、職場、仕事等短時間に全てを失ってしまう。先が見えない中では生きる希望さえ失ってしまうかもしれない。

 

今回の災害で掛け替えの無いものを失った方は多いだろうが、前を向いて歩みだすためには仲間との絆と物質的、精神的支援が必要になるだろう。支えてくれる仲間がいて応援してくれる声が何よりの励みになるのではないか。

 

リスク回避の居住場所の移転とは故郷を離れ仲間との別れになる。相反する行動であるので苦悩と葛藤は想像を超える。メディアによる報道は時と共に削減されていくだろうが、被災された方々の苦労はこれから始まる。一日も早い復興と被災された方の健康を祈るばかりである。

 

長野日報土曜コラム平成23年3月26日掲載

有限会社テヅカプラニング 手塚英雄

 

 

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