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116 幸福感を高める

間違った幸福感

 

人は誰でも幸せな人生を送りたいと願っている。おそらく全ての人がそうありたいと昔から思っているのに、現在社会が過去に比べて幸せになっているとは思えない気がする。

50 年前の社会と比べてはるかに生活は便利になったことは間違いない。コンピュータ、インターネット等通信技術の進歩により 50 年前では想像のできない社会が存在する。

 

高度経済成長期は新たな電化製品を取得することで、生活が豊かになり、幸福感が高まっていった。

物による幸福感増大はお金の増大と比例する。よってお金をより多く稼ぐことが幸福感を高めることと同一であった。

テレビや映画を通じて映し出される米国の生活は便利な物に溢れ幸せそうに見えた。電化製品に限らず、マイカーやマイホームを取得するには相当のお金が必要になる。

 

お金があれば欲しいものは何でも取得でき、家族の生活を更に高められると考えられる。子供の教育もお金によって塾に通わせ、家庭教師を雇い、高学歴を達成しようとしてきた。

リーマンショック時は高学歴でもリストラされ高学歴偏重の見直し気運が高まったが、高学歴志向は現在にも通じている。大学別親の所得を比較すれば、東大生の親が最も高所得であった。こんな記事をみると人生はお金の多寡で幸・不幸が決まると思ってしまう。

 

かつて日本人がエコノミック・アニマルと揶揄された時期は、国民が一丸となって経済的豊かさを求めて、国の施策も後押しを進めた。物価の上昇はあったが、定期預金にお金を預けておけば 10 年で 2 倍近い金額に増えていた。

社会保障制度も整備され、不安のない老後が送れると思われていた。

 

幸福感の要因

 

お金と幸福感の関係は一定の金額(700 万円前後)までは相関があるが、それ以上増えても幸福感は高まらないといわれている。戦後の日本は現在より物が不足し、インフラも整っていなかったので物質的豊かさが幸福感に直結していた。

高等教育を修得することで国や企業が高度成長する原動力になっても、個人の幸福感は知性や教育水準との相関は低いといわれている。幸福感は論理的事象を司る部分ではなく感情的事象を司る部分で受信している。

高度成長期の会社における同僚は仲間というよりライバルであったかもしれない。誰が最も早く出世するか競争が行われていた。仕事に限らず個人の生活も常に比較され、相対的基準を下に生活設計がなされていた。他人との比較はどんなに努力しても、その結果に満足することがないので幸福感は高まらない。

 

当時は失業というストレスは低かったと思えるが、常に競争の社会に身を置けば、仲間を蹴落としても這い上がろうとする意欲から相当のストレスが生じた。ストレスにより幸福感が高まることはない。仲間を欺けば後ろめたい感情から更に幸福感を下げてしまう。

 

子が生まれることにより親の幸福感は一時的に下がるといわれている。これは子の成長を心配そうに見守る親の感情から来るのだろう。さらに養育には相当の費用がかかるので、将来お金の遣り繰りが心配の種になる。しかし、子が独立するとそれらの不安も消え、幸福感が高まってくる。

幸福感は気の合う仲間といると高まる。仕事に関連した仲間は退職と同時に失うことになる。仕事以外の友人といえば学生時代の友人である。仕事に全てのエネルギーを注いできたなら、趣味を通じた仲間作りは非企業人と見られるかもしれない。

 

幸福感を高める方法

 

幸福感を高めるには楽観的になることである。楽観的になろうとしてもすぐに切り替えることは難しい。自分の楽観的受信部の感度を高める必要がある。

そのためには「3つのよいこと日記」があげられる。今日一日を振り返ってよいことを 3 つ書き出す。仕事や対人関係で嫌なことばかりという人は悪いことに対する感度が高まっている状態である。仕事に限らず美しい夕日を見た、以前から気になっていた人に初めて声をかけた、何気なく手を貸したら笑顔でお礼を言われたことなどである。

 

そしてそのよいことが何故発生したかを自分に問いかける。このようなことを毎日繰り返すと次第に楽観的受信部の感度が高まってくる。

他人に親切にすることで幸福感が高められる。他人から親切にされれば嬉しくなり幸福感が高まるのは分かるが、そんな相手次第の行為を待っているより自分から仕掛ける。

 

心理学者の行った実験では親切行動を取ったグループと取らないグループの比較では親切行動を取ったグループのほうは明らかに幸福感が高まっていた。しかもその幸福感は相手から感謝がなくても長時間続いていた。

他人と比較しないほうが幸福感は高い。他人と比較することで他人と優劣が決定される。自分が相手より劣っていると感ずれば、これまでの努力から高まった自信が薄れ幸福感は減少する。

 

世の中には必ず上には上がいて下には下がいるので、上の他人と比べることで自分の評価を下げてしまう。世の中の相対的基準に振り回されれば幸福感は高まらない。

家族や友人と一緒にいる時間の長い人は、そうでない人に比べて幸福感が高い。現役であれば仕事に関連した付き合いは多いが、退職すれば付き合いは一気に少なくなる。意識的に友人を作らなければ老後は寂しい。

 

人は相手を通じて自分を確認できるが、その相手がいなければ自分の存在を見出すことができなくなる。

自分の強みと達成可能な課題がかみ合うと時間を忘れるくらい夢中になれる。この状態を「フロー状態」というが、これまでの心地よい幸福感とは異なる。全てを忘れ自分の世界に没頭すると、後で幸福な時間だったと感じられる。

 

幸福感は自分一人のテンションが上がっても得られる。アルコールやドラッグを使用すれば瞬間的な幸福は得られるが、時が経てば空しさや罪悪感を覚える。

自分が所属する組織(企業・団体、地域、社会)の目的と合致する行為であれば、幸福感は長続きする。

誰かの役に立つことに携わり、フロー状態が得られれば最高の幸福が得られるだろう。このような行為には名誉とか賞が与えられることがあるが、行為そのものから幸福感が得られる。

世のため、人のためになることは最も自分のためになるようだ。

 

幸福感が高められると

 

幸福感が高い人は病気になりづらく、長寿であるという実験結果がある。主観的に自分は健康であると信じている者は実際に健康でいられる。「病は気から」といわれているが、医学、心理学の両面から実証されている。

本当は悲しくないのに泣き真似をすれば本当に悲しくなってくる。本当は楽しくないのに声に出して笑ってみると楽しくなってくるものだ。この時期自分は花粉症で苦しんでいる人は、自分にそう思い込ませているのかもしれない。

 

もし気の力で病気を軽くすることができるならば、毎年膨らむ医療費を減らすことができる。それは家計ばかりではなく企業や国の財政負担を減らすことにもなるかもしれない。

幸福感が高い人は収入が多い傾向がある。就職、昇進、契約等に関わるのは人である。信頼でき、明るく、笑顔の多い人のほうがチャンスに恵まれやすい。

 

また行動的、友好的、創造的である。そして幸福感は一人にとどまらず家族や周囲に伝播していく。

お金が幸福の代替品のように受け止められていたが、直接幸福を求めていったほうが充実した意味ある人生が送れそうだ。

 

長野日報土曜コラム 平成 28 年 4 月 23 日掲載

有限会社テヅカプラニング 手塚英雄

 

 

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