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長野日報新聞「土曜コラム」に掲載中のコラムです。ぜひお読み下さい。
平成26年
平成27年
平成28年
平成29年
平成30年
令和元年からのコラム
平成31年
113. 長期投資家は幸せ者
114. 選択制確定拠出年金
115. 持続的幸福感の増大
116. 幸福感を高める
117. 人生を明るく豊かにするポジティブ心理学
118. 明るく働き甲斐のある職場づくり
119. 日本的ポジティブ感情
120. 煩悩は常に悪とは限らない
121. バランス感覚は大事
122. 果報は自力で引き寄せる
123 こだわりは長所か短所か
124 年の初めの資産管理
平成28年
117 人生を明るく豊かにするポジティブ心理学
ポジティブ心理学
ポジティブ心理学は、1998 年にマーティン・セリグマン教授が、アメリカ心理学会の会長に選ばれた際に、今後取り組む課題としてポジティブ心理学の創設を選んだことによって開始された。心理学において新しい分野である。
これまで心理学はうつ病や統合失調症、アルコール依存症といった「心の病」に注目し、その研究に取り組んできた。これはこれで一定の成果を表した。
しかし、患者の症状は和らいでも、患者はみじめな人生を送っている現実があった。人は自分の弱点を補うだけでは幸せになれない。病気の人のマイナス 5 の部分をマイナス 3 にすることも大切だが、健常者のプラス 2 の部分をプラス 7 にするほうが多くの人が幸せになれると考えた。
ポジティブ心理学とは私たちが生まれてから死ぬまで、その間のあらゆる出来事について、人生でよい方向に向かうことについて科学的に研究する学問であるとポジティブ心理学者のクリストファー・ピーターソンはいっている。
ポジティブ心理学は単なる幸福を論じるのではなく、「快の人生」「よい人生」「意味のある人生」の 3 つに区分している。
「快の人生」は 5 感によって快を感ずることである。美しいものを見て、心地よい調べを聴いて、美味しいものを食べれば幸せが感じられる。
自分勝手にアルコールやドラッグ、馬鹿騒ぎなどからも快は感じられるが、自己満足であり、瞬間的で長続きしない特徴がある。
「よい人生」は信頼できる仲間がいて、常に感謝の気持ちを持っている状態である。誰に対しても自然に親切ができ、仲のよい夫婦関係、家族関係、友人関係が存在する。
また自分が何かに没頭し夢中になれる状態も含まれている。よい人生では後で振り返ると満足感や充実感が得られる。
「意味のある人生」は自分が企業や地域、社会など大きな組織とつながっている感覚を持っている。その組織の発展に貢献できると、高いレベルで自己の存在を確認することができる。
ポジティブ心理学はよい人生を送るための科学的な学問といわれるが、孔子の論語による処世術と重なるところが多いと思われる。
心と身体は一体
「病は気から」という諺があり、日頃からネガティブでいるとやがて病気になってしまうことはそれなりに納得できる。それではポジティブであれば健康でいられるだろうか。
ポジティブ心理学によるミルウォーキーにあるノートルダム教育修道女会において 180 人のシスターの手記を調査した。ポジティブ感情を表す言葉を多く使った快活グループはその 90%が 85 歳になっても生存していたが、快活でないグループは 34%しか生存していなかった。
修道女たちは日常ほとんど同じ環境で同じ生活しているので、生存率の違いはポジティブ感情量だけといわれている。
ポジティブ感情に似た特性に「生きがい」がある。生きがいが高いレベルで心血管疾患による死亡危険を低下させると報告されている。
生きがいを持たない男女の死亡率は生きがいを持つ男女に比べて 160%高かった。また、生きがいを持つ男性は生きがいを持たない男性より脳卒中による死の危険性はわずか 28%であった。
風邪など感染症のほかにもガンにおいても幸せな人のほうが罹患率が低く死亡率も低いと報告されている。
理由としては生物学的に幸せな人はストレスに上手く対処できるため、ストレスホルモンや他の循環反応が抑制されるため、血管壁への損傷が押さえられるためといわれている。
幸せな人は総じて健康といえるだろうが、楽観的に物事を捉えるあまりリスクには鈍感であるともいわれている。何とかなるという楽観性からケガや事故、重篤な病気を軽んじる傾向があるようだ。
人間関係
よい人生にはよい人間関係が必要である。特に男性高齢者は仕事を通じた人間関係はやがてなくなるので、新たな人間関係を作れるか否かによって人生の良し悪しが決まってくる。
日頃からぼやき癖のある人は相手の短所に関心が向かっている。仕事や家庭でこの習性が身に付いてしまうと、相手の長所に気付くことは難しい。
短所を指摘されるのは相手にしてみても気分はよくないばかりか、自分自身がネガティブな志向に陥っている。ネガティブ志向ではよい人間関係は作れない。相手の長所に関心が向かうポジティブ志向では、相手と信頼が増し、親切な振る舞いが自然とできてく
る。ネガティブな言動はポジティブな言動より威力が強いので、ポジティブな言動がネガティブな言動より3 倍以上ないとバランスが取れないといわれている。
これは夫婦関係にも当てはまり、仲の良い夫婦はポジティブな会話が多い。養育においてもある国立大学の医学部に入学した学生は親から勉強しなさいと言われた記憶がないと話していた。勉強しないとお父さんのようになってしまうは、最悪のネガティブワードである。企業の退職事由の多くに人間関係のトラブルがあることから、ある自動車関連企業では社員教育にポジティブ心理学を取り入れている。
相手の良いところに注目して、相手を受け止め言葉を発することは、意図的に体裁を繕い建前で付き合うように思われるが、試してみれば効果は確認できるだろう。笑顔を向ければ笑顔が返ってきて、憎しみを向ければ憎しみが返ってくる。
初めは建前でも繰り返しているうちに本音となり、相手にしても耳障りな本音より、心地よい建前のほうが好まれるだろう。
夢や希望の実現
小学生に将来の夢を尋ねると、スポーツ選手、公務員、先生など子供たちに身近な職業があげられる。
これが就職を目前に控えた大学生になると、福利厚生が整った企業、高収入、倒産の心配がない公務員、さらに学校で学んだスキルを活かせる職種が選択される。
就職して 3 年以内に大卒者で 3 割が退職している。人間関係のトラブルか、給与や労働条件か、退職事由は人それぞれであるが、現状の就職先では将来の夢や希望が見出せないと感じたのだろう。
そもそも将来の夢や希望とはどんなものだろうか。大学に進学して大企業や公務員になり、給料が高いだけ
力が発揮でき、所属する組織の発展に貢献できることが夢や希望の実現となるのではないか。
青臭いと思われるかもしれないが、夢や希望は純粋な思考に基づいている。
企業が持つブランドが必ずしも自分にあっているとは限らない。地道にコツコツと仕事をするのが適性の人に営業職としてノルマを与えられたら苦しいかもしれない。企業と学生のニーズのミスマッチは大きな問題となりつつある。学生は企業の各種ランキングに注目する前に自分の適性を認識したほうが良いだろう。
ポジティブ心理学に「強み発見テスト」があり、24 種類の強みの中から自分の強みを確認することが出来る。実際に行ってみると私の場合は、独創性、誠実、自制心、感謝と希望が高得点であったが、社会的知性、勤勉、思いやり、公平さ、審美眼は低い点数であった。
他人と異なる仕事をしてみたいというところは独創性の現われかもしれない。社会的知性の低さもそれとなく認識していた。それを補うためにこれまで FP を学んできたような気がする。
自分の弱みを補強することも大切であるが、強みを活かして没頭して、自分が所属する組織に貢献できたら、夢や希望が叶えられるのではないか。お金や名誉は決して目的ではなく結果のひとつになるだろう。
長野日報土曜コラム 平成 28 年 5 月 28 日掲載
有限会社テヅカプラニング 手塚英雄
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